相談解決事例

Case

父のおじとおばが亡くなりました。それぞれに遺言があります。どうすればよいでしょうか。

事例

父のおじとおばが亡くなりました。それぞれに遺言があります。どうすればよいでしょうか。

結果

それぞれの遺言の内容を整理し、登記原因が違う二つの登記を行うことによって、無事に遺言の内容どおりの名義変更を行うことができました。

コメント

今回、亡くなられた方々は、ご夫婦でした。まず、ご主人がお亡くなりになり、その後に奥様がお亡くなりになっている…という経緯でした。そして、ご主人と奥様それぞれが、次のような同じ内容の公正証書遺言を作成されていました。それらは「①自分が亡くなった場合には、財産をパートナーに “相続させる” 。ただし、②すでにパートナーが亡くなっていた場合には、財産を甥の子供に “遺贈する” 。」という内容です。いざ自分が亡くなったときに、すでにパートナーがなくなってしまっていた場合に備えて、甥の子供に流す道も作っていたんですね。

 

便宜上、結論を先にお伝えしますと、まず、先に亡くなられたご主人の方の処理をします。具体的には、①「相続」を原因とする所有権移転登記を行い、ご主人の名義から、一旦、現在はお亡くなりになっている奥様の名義にします。ご主人の死亡時には、奥様はご健在だったからです。冒頭で紹介した遺言の①の内容を再現するわけですね。

 

そして次に、奥様死亡時の処理をします。具体的には、②「遺贈」を原因とする所有権移転登記を行い、奥様の名義から、今回の依頼人である甥の子供名義にします。奥様の死亡時には、ご主人は亡くなっているため、奥様の遺言の①の内容は再現できません。そういうわけで、遺言の②の内容を再現することになります。

 

このようにして、無事に二つの遺言の内容を形にすることができました。

 

次に、今回登場した①「相続」と②「遺贈」という、二つの用語について触れさせていただきます。ここからは、少し専門的な内容になりますが、ご興味がおありの方は、ぜひご覧ください。

遺言の中と登記の原因に ①相続(させる) ②遺贈(する) という、二つの表現が出てきました。登記を申請する際には、登記所に提出する申請書に登記の「原因」を記載しますが、その原因を誤ると、登記申請がうまく通りません。そういうわけで、本件のようなケースで、申請書に「原因 相続」と記載するか「原因 遺贈」と記載するかは、とても重要なことです。

 

人が亡くなった際に、誰がどういった順番で相続人になるかは、民法で定められています(相続人の順位の話については、紙面の都合上、今回は割愛させていただきます)。民法の規定で相続人として認められる人が、財産の受け取り手になる場合に、「相続」という文言を使用するのが基本です。一方、法律上は相続人になれない人に対しても、遺言により財産を贈ることはできます。このように、相続人以外の人に遺言で財産を贈ることを「遺贈」といいます。これら「相続」と「遺贈」という文言の選択に、注意が必要な場面が多々あるのです。

 

簡単な例を一つ挙げますと、例えば、被相続人の子が、遺言書作成時と相続開始時に生存している場合に、遺言書に「財産を孫に “相続させる”。」という記載があっても、登記申請書に記載する原因は「遺贈」になります。もし、被相続人の子が死亡している場合には、被相続人の孫が相続人になることがありますが(代襲相続といいます)、この例の場合は子が生きているため、子が相続人になります。よって、孫は相続人ではないので、性質は「遺贈」になるのです。もし遺言書の“相続させる”という文言そのままに、原因を「相続」と記載していた場合、登記はできません。

このように、「相続」か「遺贈」の、たった一語の選択で、登記できるかできないかが決まってしまうのが、登記の難しいところです。

 

また、今回お話させていただいた事例は、遺言作成後に、遺言の内容を実現する際のお話でしたが、遺言作成時にも注意が必要です。別件でのお話ですが、先日、自筆証書遺言(専門家を介して作成する公正証書遺言と違って、自分で手書きした遺言です)を作成されている方がおられました。しかし、内容に不備があり、無効な遺言となってしまったため、使用することができませんでした。自筆証書遺言は、少々要件が厳しいため、知識がないまま書いてしまうと、使えないことが多々あります。せっかくの大切な遺言なので、ぜひとも正確かつ有効な遺言を残していただきたいと、強く思います。

 

もし心当たりや気になることがございましたら、ぜひ一度弊所までご相談ください。

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